「人間らしさを促す」場づくり。働くでもなく遊ぶでもなく-生きてみる-

「人間らしさを促す」場づくり。働くでもなく遊ぶでもなく-生きてみる-

2021年6月11日

「37年間オフィスを研究してきて、自分の理想のオフィスを作りたくなったんです」

京都工業繊維大学の仲隆介教授はそう語り、滋賀県大津市の湖西エリアで、“ワーケーション施設”ではなく“生きる場”を創っていた。

京都工業繊維大学 仲 隆介教授

琵琶湖は美しい。大津市南小松の浜もとても美しいが、都会にほど近く交通の便が良い滋賀県ではその美しさは人の手によって汚されがちだ。

一例を挙げれば、たき火は楽しいけれど、白く美しい砂浜に黒い跡を残す。 多数の人が連日でたき火の黒い跡を残せば、白い浜も黒ずんでしまう。

「人間では作れないこのロケーションをどういうふうに使いたいのか。この自然環境を愛してもらえる人に楽しんでいただきたい。」

滋賀県大津市南小松の湖畔の宿「白汀苑(はくていえん)」の今井一郎さんは、浜を美しく保つため、このあたりの浜のルールを伝え、守って欲しいと笑顔で丁重に浜で楽しむ人々に声かけする。

これを何十年と続けている。

白汀苑 今井一郎氏

声かけ。今の時代、うっかり声をかけるのは怖い。 ひょっとしたら暴言や暴力が返ってくるかもしれない。 今井さんの「声かけ」は、とても胆力がいるし、続けるとなると骨が折れる。 それを何十年と続けてきた方がいる。 目の前にいる湖畔に住まいする人のその何十年間の在り方と営みが、目の前の美しい白浜を守ってきたのかと思うと、目の前がさらに美しく見えた。

白汀苑に宿泊する方々は、そういう今井さんの思いを感じつつ「どこに行ってもよいけれど、やっぱりここがいいわ、ここに来たい」と言ってくれるお客様だという。 37年間のオフィス研究を経て「生きる場」を創ろうという仲教授と、何十年と美しい浜を守ってきた今井さんが出会った。意気投合なさるはずだ。

お二人が創る「生きる場」の話を聞き、「ワーケーション視察」に来たはずがスカンと足払いをくらい、しかし、空(くう)に浮いたまま心地よく空中散歩させてもらっているような感覚に陥った。

他にはめったにないロケーションをさらに他にないものとしているのは、間違いなくお二人の「在り方」だろう。 もし息詰まって身動きが取れない心情にあるなら、この「生きる場」にきて息をつくことを、生きる場で1週間「生きてみること」をおすすめしたい。


人が働くことの本質

私も、あらためて人が生きるなかで、 働くということについて考える時間をいただけた。
働く 目的は何だったのか、手段を目的にしていないか、ごまかしていないか。
僕はワーケーションという言葉はあまり好きではないのですよね。 いろんなことを“和えられる”『生きる場』を作りたい。」 と仲教授。

はい。仲先生、おっしゃるとおりですね。 ここは仲先生と今井さん、お二人の「在り方」が生んだ大人が子どものように?太古の昔のように?自然にすべきことやしたいこと、仕事や遊びや休息ができる場。


〔 ワーク + バケーション 〕施設ではない
〔 ワーク × バケーション 〕が体現された場? いや、それも言い表せていない。

やはり“生きる場”


より頑張る、ではなく環境を変える。

さらに、オフィスについても多くの知見をいただいた。
日本はGDPを生み出すために人を犠牲にしている国
というのは安宅 和人氏の著『シン・ニホン』の言葉だが、その状況で解決できる伸びしろの「しろ」はもう多くはない。

当面人口は減り続けるうえ、1日が24時間である以上、人の我慢と努力で成果を絞り出しても上限が見えている。足し算的な考え方だ。 根本的に仕事の質を上げ、創造的に効果を生み出すことができる働く場づくりについて、これ以上遅れることはできないと感じた。

仲教授が語るように諸外国より30年遅れではあるが、労働生産性を上げることを意識したオフィス・働く場の在り方を考えていかなければならないと私も感じる。
複雑で山積みになった現代的課題を解決していくためにも オフィスを変える。 労働生産性アップについて考えてきたが、私にとってはコロンブスの卵だった。

「心ではなく環境から変える。」 考えてみれば、そうそう。 私も入試のとき、自習室に通っていた。 カフェで読書や書きもの仕事をするのが好きだ。 そういう人は少なくないだろう(コロナ禍が早く収束しますように)。 クリエイティブにしたいなら、環境、空間、雰囲気をクリエイティブを育む場に変える・整えることが重要だ。

実際、( 他府県・近江八幡市の事例 )といった事例がある。


〔人間らしさを促す〕時代に

こう言うと、ではさっさとクリエイティブな環境に変えればいいじゃないか?と思うが、ワープロ(PCではなく)を導入したとき、インターネットを導入したとき、そしてみんなが時代遅れと思いつつ、未だに居座っているFAX(コロナでIT後進国の象徴とされてしまった)と同様のハードルを感じずにいられない。
何かを変えるのは面倒なのだ。

何かして失敗するのも怖い。 分かる分かる。 それでも、もう変えないと。既に手遅れかもしれないほど遅れてしまったのだから。 「こうでなければならない」「堅苦しく、大変そうに見える方が、できないときの言い訳がきく」……。

自分達が決めただけの決まりに意識的・無意識的に縛られてしまっている現状を、労働生産性やクリエイティビティに本気で向き合おうとしない言い訳をする自分を、最初は面倒でも変えてみること。

精神や気の持ち用で変えるのも良いが…残念ながら人間は思っているほど理性的な生き物ではない…根性論で頑張るのではなく空間・照明・音のコントロールなど身を置く環境から変えてみること。

環境・空間・雰囲気から変える。
テクノロジーや政治に人が合わせる時代から、テクノロジーや政治で人間らしさを促す時代に。

ここで会議できたらさぞクリエイティブだろう



「照明」と書いたが、ちょうど「生きる場」にいらしていた同志社大学名誉教授の三木光範博士からもお話を伺えた。博士は照明が人の思考や生産性に与える影響を研究されている照明研究の第一人者で、その研究成果は【知的照明|Intelligent Lighting】として新丸ビルなどに採用されている

楽しそうにドローンを操る三木教授。照明研究の第一人者

人も生き物。環境によってこれほど影響を受けるとは。 照明はそれに対して非常に大きな影響力を持つ。 長くなってきたので、この話はまた後日に。



白汀苑の〔生きる場〕で琵琶湖の爽やかな波の音 に身をゆだねて、しばらく「生きて」みてはいかがだろうか。きっと会議室ではお目にかかれない自由で柔らかい発想に出会えるはず。

生きることを忘れ社会の歯車・部品化しているとまで言われてしまうようになった人間が、休み、遊びなおし、働きなおしができる「生きる場」。  新型コロナが落ち着いたら、仲間と一緒にぜひ再訪させていただきたいと思う。今度は宿泊予約をして。

大津市議の出町さん、筆者、京都繊維工芸大の仲教授、同志社大学の三木教授 


白汀苑

〒520-0502
滋賀県大津市 南小松1095-20
https://www.hakuteien.com/